何げない日常が思い出に

昭和時代の小説家で随筆家・幸田文の『父・こんなこと』という作品は、二つの章で構成されています。父親である小説家の幸田露伴の死にゆく姿、その後の葬儀の模様をえがいた章、そして父親から厳しく育てられたエピソードを書きつづった章です。

後半の章には、料理やそうじの仕方から化粧の仕方まで事細かく父親独特なやり方で習ったことが書いてあり、習った当時の筆者の父親に対するおそれや反抗といった感情を読み取ることができます。しかし、この作品を書くにあたって、父との思い出をふり返り、涙を流すほどなつかしんでいます。父親に対する深い愛情がにじんだ作品は、読んでいてとても心を動かされました。

そんな私も、学生のころの思い出を同級生となつかしむ時、厳しくてこわい先生や、つらかったクラブ活動の練習、くやしかった負け試合ばかりが話題になります。楽しかったことやうれしかったことではなく、当時は一つもおもしろくなかったことばかりが、なつかしく、いとおしく、今となっては笑えるのです。

9月になり、また単調な学校生活が始まったと落ちこんでいる人もいるでしょう。しかし、何げない日常の学校生活の一コマがかけがえのない思い出になります。

学校はさまざまなことを学び、失敗し、その思い出を共有できる友だちを作る場所です。今日の出来事も将来の笑いの種となる思い出になるかもしれません。

【朝日小学生新聞2018年9月14日 掲載】