From灘 発言する場面にも方言がある

私は高校を卒業するまで大阪、そして兵庫県の神戸で暮らし、東京の大学へ進学しました。大学生時代のある日、関東地方出身の友人に消しゴムを貸したことがありました。その消しゴムが返ってきた時に、私は「ありがとう」と言いました。すると友人は「えっ」と声をあげ、困惑そのものの表情で数秒間固まってしまいました。私はなぜ友人が困惑したのかわからず、困ってしまいました。

みなさんは、私に理解を示す人と、この友人に理解を示す人に二分されるのではないかと思います。近畿地方出身の人には前者が、その他の地域出身の人には後者が多いのではないでしょうか。実はこれは方言なのです。

方言というと独自の単語やアクセントといったイメージが強いでしょうが、全国共通の単語でも、どのような状況で発言するかには地域差があります。近畿地方では、自分が相手から何かをしてもらったら、ほとんどの場合「ありがとう」と言います。「借りた物を返す」も、その「何か」に入るというわけです。別に「貸した物をちゃんと返してくれるなんてありがとうございます」と言っているわけではありませんので、ご安心ください。

他にも、相手のまちがいを指摘する時の言い方や、そもそもの口数にさえ地域差があります。人々の性格によるものではなく、「ものの言い方」にも方言があるのだと知っておいてください。くわしく知りたい人には、少し難しい本ですが、岩波新書の『ものの言いかた西東』をおすすめします。

【朝日小学生新聞2023年1月13日 掲載】