From灘 物語の季節、時代ごとに変更?

平安時代に書かれた物語の絵巻物や絵本は、貴族のための美術品という面が強く、色とりどりの絵がかかれていました。江戸時代にはおもに大名のお姫様のために、同じように豪華な絵本がたくさんつくられました。

このような絵本のさし絵をかくときには、ちょっとした苦労があったようです。物語の登場人物は多くが貴族なので、お屋敷には草木をたくさん植えた庭があります。当然、さし絵にも庭をかかないといけませんが、草木の姿は季節によってまったくちがいます。また、季節によって人々の着る衣服も異なります。しかし、本文に季節などの場面設定がはっきりと書かれていないことも多いのです。

たとえば「伊勢物語」の第一段(短編集の第一話に当たります)にも、季節ははっきりと書かれていません。そのため本によってさし絵でかかれる季節も異なります。ただ、江戸時代初期を境に、それ以前は春の花ざかりの絵が多かったのが、秋の紅葉の絵が中心になっていくという変化があります。

室町時代以前は主人公がよんだ和歌の言葉などを理由に春だと判断した、桜の木をかき入れた色つきのさし絵が中心でした。その絵をもとに白黒の印刷本がつくられました。その本をもとにあらためて色つきの絵をかくときに、木の下に生えている草が紅葉の落葉のように見えたことと、奈良という舞台を示すためにえがかれていた鹿には紅葉と組み合わせるという定番があったことから、桜の木が紅葉の木に変わっていったのです。

【朝日小学生新聞2022年7月22日 掲載】