大学の「国際寮」 国境越える人材育てる場に

大学の「国際寮」が注目されています。海外からの留学生と日本人の学生が寝食をともにし、日常的に語学やコミュニケーションの力などを磨けると人気です。大学にとっては、留学生や地方の出身者を増やし、多様な学生を確保するねらいがあります。(編集委員・吉田由紀)

留学生と生活、語学力磨く

東京・新宿区の早稲田大学近くの早稲田駅から東京メトロ(地下鉄)で8分、中野駅で降りて徒歩9分のところに同大学の国際学生寮「WISH」があります。2014年春にオープン。872人の定員のうち、3割以上が海外からの留学生です。

11階建ての建物で、3階以上は男女それぞれの専用フロアに分かれた寮室です。部屋は4人1組の「ユニット」と呼ばれる単位で、それぞれの個室と4人が共有するリビング、洗面所があります。自炊のためのキッチン、シャワールームや洗濯機、トイレは各フロアで共有します。
入寮できるのは学部の新入生に限り、期間は最長で2年間。寮費は現在、水道光熱費を含み5万3千円。禁煙・禁酒で異性のフロアへの立ち入りや、家族を含む外来者の宿泊は禁止。門限はありません。

入寮して1年になる岡本浩弥さん(政治経済学部2年、東京・早稲田実業学校高等部出身)は同じユニットにタイからの留学生がいるので、毎日英語を使わざるをえないといいます。「そのおかげか、この年末年始の海外旅行では以前より自然に英語を話せたと思います。ここでできた外国人の友だちを将来、旅行やビジネスでたずねたい」

ユニットの4人のうち1人は留学生、また学年や学部もばらばらになるように組み合わされます。ストレスなく生活できるよう、冷房の強弱の好みなどはできるだけ似たタイプの人を一緒にしています。
アメリカ・ハワイから日本文化を学びに留学しているラビンコ・タリアさん(社会科学部1年)は去年9月の入学時に入寮。「寮のSIプログラムでは日本語で多様な意見をまとめ、自信がつきました」と話します。

ユニットで共有するリビングルーム(左)と個室(右)。できるだけリビングに出てくるよう、個室は最低限の広さになっています=どれも東京都中野区の早稲田大学国際学生寮「WISH」

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20160410_a05各フロアにある共有キッチン(左)で食事をつくります。運動できるフィットネスルーム(右)のほか、ピアノのある音楽室、大きな浴槽のある浴場などもあります。廊下に掲示されるスケジュール表(下)(右)には、学生生活に関する相談会や歓迎パーティーなど学生向けのイベントがぎっしり

講座参加は義務

SIプログラムとは社会人としての基礎力講座。「学びの場」としてのWISHの特徴の一つで週に1回、グループワークやディスカッションでコミュニケーションなどの力を養います。参加は寮生の義務です。
学生寮を担当する早稲田大学レジデンスセンターの輿石直幸センター長は「留学生を増やす、グローバルリーダーを育てる、地方出身の学生を増やすという大学の目標を実現するための策の一つがWISHです」。
入寮を希望する人が多く、倍率は毎年ほぼ2倍。SIプログラムで学びたいことなどをまとめたエッセーで選考されます。輿石センター長は「共同生活に積極的に参加できる学生に来て欲しい」と話します。

寮生活について話してくれた岡本さん(左)とラビンコさん(右)。中央は入寮したばかりの高畑涼奈(たかはたすずな)さん(教育学部1年)。「比較教育学に興味があるので、寮生活からも学びたい」といいます

30大学が設置、新設の動きも

リクルート進学総研の調査(2013年)によると、国際寮は全国の30の大学が設置していました。国際基督教大学(東京都)や立命館アジア太平洋大学(大分県)は01年、国際教養大学(秋田県)は04年に開設。国際的な人材の育成をうたう大学が先行し、その後、総合大学、さらに工業大学や女子大学などに広がったといいます。

リクルート進学総研の小林浩所長は「学生は、グローバル化は意識していても経済的な問題や語学力への不安などで、なかなか留学までにはふみ切れない。国内にいながら語学も異文化も学べる国際寮は魅力」。大学にとって、少子化が進むこれからを生き残るためにはグローバル化が欠かせませんが、大学全体のグローバル化の前に、まず寮で実施してノウハウを蓄積できるというメリットがあるそうです。

千葉大学はこの春、国際学生寮を千葉市稲毛区につくり、慶応大学は17年3月に同大として初めてユニット形式の「日吉国際学生寮」を神奈川県横浜市に新設します。すでにある施設を活用する例も。大阪大学は4つの寮を改修して留学生を受け入れる「混住化」を13年から進めています。
こうした動きは今後、さらに進むと小林所長はみています。「企業の海外進出が広がり、海外からの観光客も増えます。国内でもグローバルな人材がさらに求められるようになり、一部のトップ校だけでなく多様な大学で人材を育てなければならなくなるでしょう」

【朝日小学生新聞 2016年4月10日(日)】